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部屋とアジャイルと私(仮称)

前略。あらゆることの仕組みが複雑化し、テクノロジーに人間が翻弄すらされている今日、ソフトウェア開発に携わるエンジニアの"はしくれ"として、世の中に提供すべき本当の価値を日々迷走中。。。

失敗の本質―日本軍の組織論的研究

昨年末ギリギリに読み終わっていたがやっとBlogに書ける。

自分自身、初めて読んだ本についてBlogを書くことになるが、よくあるブックレビューというよりも、読んで学んだこと・気づいたことをメモし、次に繋げるようなエントリーとしたい。

失敗の本質―日本軍の組織論的研究 (中公文庫)

失敗の本質―日本軍の組織論的研究 (中公文庫)

 

 

■ この本を読むきっかけ

野中郁次郎氏は有名すぎる方であるが、最初知った時は経営学とか(組織論とか)そっち系の先生だとおもっていた。そういえば数年前、会社の研修で『経営管理(日経文庫 経営学入門シリーズ)』を読んで感想文を書いたこともあった。

知識創造企業、暗黙知形式知、SECIモデル・・・あたりは野中氏の名前やナレッジマネジメントという言葉を使わなくても聞いたことがある人は多いはず。エンジニアよりも、むしろ経営に近い人の方がこの辺はピンと来るかもしれない。

そんな野中氏は、数年前よりアジャイル界隈でも注目されている。アジャイルの手法のひとつであるスクラムとともに。このスクラムの名称は、野中郁次郎と竹内弘高の両氏が Harvard Business Review 誌に発表した論文 "The New New Product Development Game" からきている。新製品開発のプロセスのひとつ(下図 Type C)としてキヤノンやホンダは「ラグビーのようにボールを前後に回しながらチームで一丸となってボールを運んでいる」と。この辺は平鍋氏のブログにとてもよくまとまっている。

*補足*野中氏がアジャイル手法のひとつであるスクラムを提唱したわけではないが、スクラムの考え方の源流はこの論文にある

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 The New New Product Development Game - Harvard Business Reviewより

 

前置きが長くなったが、日本の組織研究という観点から、どのようにアジャイルスクラムが生まれたかをもっと知りたいと思ったのがこの本を手に取ったきっかけである。

ちなみに、上記論文が発表されたのが1986年。その2年前にこの『失敗の本質』は初版刊行となっている。野中氏が何に興味を持ち、何を研究していたのか。そしてどうあるべきと導いたのか。それを知るためにも、まずこの『失敗の本質』を読むことにした。

*補足*この後(1991年)野中氏はあの知識創造企業(The Knowledge-Creating Company)をHarvard Business Review 誌に発表

 

■ざっくり概要と感想サマリ

ここでは本の超概要と感想サマリだけを記載し、詳細や特記したい点については後続に記載する。

さてこの『失敗の本質』は、タイトルから分かるとおり、大東亜戦争における日本軍の失敗の研究である。しかしながら面白いのは、なぜ無謀な戦争に突入したかというその原因を究明するような研究ではなく、日本軍の組織にフォーカスしており、当戦争における「戦い方」や「負け方」を組織論的観点から研究している点であり、この研究が野中氏をはじめとする経営学の組織論学者と、戦史・軍事学者の共同であったことである。
大東亜戦争における6つのケース(ミッドウェー・ガダルカナル・レイテなど)をモデルとし、それぞれなぜ日本軍が敗北したかを分析している。その中で日本軍の行動やその特徴をアメリカ軍と比較しており、科学的・理論的な学習を重視するアメリカ軍と体験的学習(経験則)を重視する日本軍(陸軍と海軍をひと括りにはできないが)のことや、曖昧な戦略(ビジョン)により各階層での判断に一貫性がなく人によって目的意識の乖離が随所に見られた点、指示命令系統は明確であったとしても各判断に際して「温情」や「仇打ち」のような情緒的思考が強く反映されていた点などが挙げられている。そしてそれらの失敗の本質として、日本軍は近代的な階層型組織(官僚型組織)を取り入れていたが、そこに集団主義(情緒的思考などのアンフォーマルな感情が判断を大きく左右するという属人性)が織り交ざるという日本型ハイブリッド組織としており、この組織的特徴はその後の日本企業の多くに通じるとまとめている。
今でこそ失われた20年がアベノミクスで復活するのか?といわれるが、1980年代は製造業を中心として世界的に日本的経営が注目を浴びていた時期であり、日本型組織の特徴を分析してバブル崩壊後の日本の再発展につながる研究のひとつといってもよいのではないか。
本書では触れられていないが、日本における戦後の高度経済成長をこの日本型ハイブリッド組織が支えたという一面があることは事実であろうし、日本における「品質」に対するこだわりが世界に誇れるものであることは今日も変わらないと思っている。いずれにせよ、このような日本の組織には欧米型組織にはない何かがあったのは間違いない。本書の中ではこのことについて、以下のように触れている。

日本軍の持っていた組織的特質をある程度のところまで創造的破壊の形で継承したのはおそらく企業組織であろう。(中略)戦後の日本企業組織にとって最大の革新は財閥解体であった。(中略)その結果官僚制の破壊と組織内民主化が著しく進展し、日本軍の最も優れていた下士官や兵のバイタリティが湧き上がるような組織が誕生したのである。(中略)日本軍の戦略発想と組織的特質の相当部分は戦後の企業経営に引き継がれているのである。

ただし当時はバブル崩壊後の日本。最後にはこう締めくくっている。 

われわれの得意とする体験的学習だけからでは予測のつかない環境の構造的変化が起こりつつある今日、これまでの成長期にうまく適用してきた戦略と組織の変革が求められている。

スクラムの源流を学ぶためにこの本を手に取ったが、そこにあったのは日本軍の特徴から繋がる戦後の日本企業であった。ソフトウェアの発展の流れの中におけるアジャイルを考えるとき、まったく別の流れからスクラムの考え方が生まれたという事実はとても興味深い。どんなに素晴らしい技術があったとしても、それを活用できる組織でなければならないし、IT業界に身を置くひとりのエンジニア、というよりビジネスマンとして、これからもこの野中氏の研究を一層掘り下げていきたい。

次は、野中氏のこの研究の続きにあたる「アメリカ海兵隊」を読むこととする。

 

■その他メモ

  1. 第二次世界大戦における大東亜戦争について、ナショナリズムとは関係なく、歴史的事実をもっと勉強しなければいけないと痛感。
  2. ノモンハン事件
  3. ミッドウェー作戦
  4. ガダルカナル作戦
  5. インパール作戦
  6. レイテ海戦
  7.  沖縄戦
  8. 軍隊が採用した、合理性・効率性を追求した形であるとされる階層型官僚制のことをもっと調べる(組織論)。システム開発・ソフトウェア開発におけるプロジェクトも、基本的には階層型組織である。
  9. 日本文化の特徴として「沈黙という美徳」や「言葉にせずとも分かり合える」的なことは良く言われるし、そのような傾向はいまでもある。
  10. 学習する組織と学習しない組織。本書でいえば、科学的・理論的な面を重視するアメリカ軍と、経験則の中を超えた学習をあまりしない日本軍。特にアメリカ軍の場合はガダルカナルからの学習でによる水陸両用作戦で海兵隊が活躍。

 

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