「納品」をなくせばうまくいく ソフトウェア業界の“常識"を変えるビジネスモデル
を読んだ。実は1ヶ月以上も前だったが、実はブログを書いていないことにさっき気付く。
8/27のイベントに先立ち、事前に自分の頭の中を整理しておきましょうって感じの2本目記事。
1本目はこちら。
システムインテグレーション崩壊 ~これからSIerはどう生き残ればいいか? - 部屋とアジャイルと私(仮称)
さて、Amazonでベストセラーになっているとも聞く「納品をなくせば・・・」だが、元々はソニックガーデン倉貫氏のブログをちょくちょく見ていたので、待ちに待ってた書籍化であった。著者である倉貫氏は大手SIer(TIS)に居ただけあってSIの実態をちゃんと把握されていて、いつも説得力のある文章でまとめられているが、今回は書籍ということでまたいつも違う新鮮さもあった。
「納品」をなくせばうまくいく ソフトウェア業界の“常識"を変えるビジネスモデル
- 作者: 倉貫義人
- 出版社/メーカー: 日本実業出版社
- 発売日: 2014/06/12
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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一括請負のSIモデルでは、作ったシステムを「納品」して売りが上げるSIer(受注側)と、そのシステムを動した後に効果が生まれる顧客(発注側)という相違のため、お互いディフェンシブになりがち。またシステム開発金額は人月積算のため労働集約型。この根本的な問題点に対して「納品」を無くし、開発〜運用ず〜っと顧客と一緒に、月額定額契約で「受託開発(運用・メンテ)」を実施するという新しいビジネスモデルを提唱。ソニックガーデン社はこの形でもう3年ビジネスを行っている。ポイントは顧客と一緒にビジネスを育てていくというCTO的なITプロフェッショナルサービスで、俗に言うDevOpsにも通じるし、Webを使った新規事業のスタートアップでの事例が多い。開発スタイルは(結果的に)アジャイル開発。IT業界のエンジニアは「ナレッジワーカー」であるため自律的でなければならず、また、会社が1つのチームとして機能することを最優先しているので、エンジニアを大きく増やすことは考えておらず、「のれん分け」という形でのビジネス拡大にもチャレンジ中。
ザックリいうとこんな感じであろうか。
ひとつひとつの部分について、倉貫氏が大切にしている考え方や価値観(およびその裏付け)が反映していて、それが見事に1つにまとまり、実際にビジネスモデルとしても成功しているというから本当に説得力がある。
とても読みやすい文章で、事例や生の声もあり、自分の身の回りでも沢山の人に読んでもらいたいと感じた本である。特にエンジニア仲間というよりも、上司や経営者に読んで欲しいな、というのが率直な感想。
キーとなると感じたポイントをいくつか。
1.工夫したくなるビジネスモデル
新しいことにチャレンジしたり生産性を向上させるために工夫したり・・・というのはエンジニアの知的欲求の本質。この「納品のない受託開発」は、それらを阻害しやすい(もしくはやっても評価されない)従来型のSIビジネスやSIerの人事評価の問題点が解消しやすいビジネスモデルといえよう。
2.顧客からの信頼を得やすいビジネスモデル
「納品(もしくは本稼働)」を目指して受注側と発注側が協力する形よりも、共に新しいビジネスにチャレンジしながら、試行錯誤する形は、結果が出なかったときもWin-Winの形を作りやすいと言える。IT投資の費用対効果は実は測りにくいため、月額定額というのもポイント。
3.技術の統一化
扱う技術を統一していることも実はとっても大事なポイント。クラウドサービスの普及で更に一段と技術的な複雑度が増す中、このこともとても重要なポイント。Ruby on Rails、AWS、Linux・・・という形で技術は統一化し、もちろん進化させているとのこと。
4.マネジメントしない?
というと語弊があるが、要は指示命令で動くエンジニアではなく、自分で考えて行動できる自律したエンジニアである必要があるということ。平鍋氏のいうマネジメントは「コマンド管理型」から「リーダーシップ協調型」へ、という話がリンクする。そしてチームとしては自己組織化された形。どのようなビジネスにおいても、これは理想であり、常にここを目指すべきであろう。
5.属人性を排除しようとしない
サブ担当者を置くなどしているということだが、「属人性を排除」することよりも「人を大切」にするという。属人性排除はプロセスありきになるが、個人的にはこの部分は非常に迷いがある。プロセス標準化によって定量化・見える化が実現され、エンジニアリングが発展するためにはこのことは大切なのだが、プロセスなんて糞喰らえってエンジニアが多いのも事実。自律したエンジニアとこの属人性排除はセットで考えた方がよさそうだ。
いずれにせよ、ソニックガーデン社はエンジニアの皆さんにとって従業員満足度がとっても高いのだろうと推測する。それは、給与もそうかもしれないが、やりがい的な部分が大きいのだろう。ビジネスモデルの裏にある話かもしれないが、ここが一番の差別化できている部分なのかもしれない。
既存SIもしくは、既存受託開発は、明日から無くなることはないが、新しいビジネスモデルが求められているのは事実であろう。倉貫氏は「納品のない受託開発」という新しいひとつのビジネスモデルを作って、ビジネスとして成功させ、そして華々しい舞台にいるのだと思う。そして何よりもご自身のチャレンジを社会に還元しようとしている姿勢は、利益追求を超えた、経営者として素晴らしい方なのだと。そして、現在はまだ模索中であるが、いずれ自分も新しいビジネスモデルを形にしたい!
先日の夏サミで、倉貫さんとお話しする機会があった。 ま、実際は、この本が手元に無いのにサイン会に自分が勝手に押し掛けたのだが・・・ でも、とても気さくに対応してくださったのだが、その飾らないけど輝くオーラは、ブログ等で感じてた印象そのままだった。だからといって、この書籍のベタ褒めはしたくないのだが、ビジネス書としても類い稀まれな良書だとおもう。
この業界を知らない父にも薦めてみようかな。あ、でも、その前にうちの上司と経営陣に読んで欲しいな。
エレベータ・ピッチを練習だ!!(・∀・)
最後に、
8/27のイベントが更に更に楽しみになった。何を質問しようかなぁ〜
受託開発ビジネスはどうなるのか、どうすべきか | Peatix